林野庁による、路網整備や再造林対策の効果的な推進のための収益性・災害リスク両面のデータに基づく分析・評価を行うゾーニング手法を、QGISで簡易に実施するために開発されたプラグインです。
収益性と災害リスクの4象限図の理念に沿ったゾーニングを行うことが可能となります。
画像は「収益性と災害リスクを考慮した 森林ゾーニングの手引き」から引用
ICT林業推進室 室長 大萱直花 様
エンジニアとの直接対話で生まれる安心感

日本森林技術協会の大萱様
少子高齢化による人材不足や低収益性など様々な課題を抱える林業において、林野庁は路網(森林内の道路網)整備や再造林対策を効果的に推進するために、整備区域の検討を支援するツールの開発を日本森林技術協会(通称:日林協)様に委託し、2023年度に森林ゾーニング支援QGISプラグイン「もりぞん」として無料で提供開始しました。
「もりぞん」は、QGISに組み込むプラグインツールで“収益性”と“災害リスク”両面のデータに基づいて整備区域を分析・評価し、ゾーニングを行います。収益性の評価には「地位(成長ポテンシャル)」、「集材作業効率」、「地利(到達難易度)」、災害リスクの評価には「地形の複雑さ」、「傾斜」、「保全対象を含む流域」の基本6要素を用います。そして要素ごとにしきい値を設定して点数化し、収益性軸と災害リスク軸の両軸の評価を合成することで4象限のゾーニングを色分けで表現した地図(ゾーニング図)を作成することができます。

「もりぞん」で作成したゾーニング図(画像出典:林野庁「もりぞん」操作マニュアル)
地域特性にあわせて精度向上を図れるように、独自に作成した要素マップと差し替えたり、基本6要素以外の要素を用いたりと、自由にカスタマイズすることが可能です。ゾーニング図を印刷して都道府県や市区町村、森林組合など関係者間で共有し、路網整備計画の作成や効率的な施業が可能な森林の区域の決定などに活用できます。
MIERUNEは日林協様からの委託により、この「もりぞん」の開発を行いました。「もりぞん」は森林ゾーニングの研究者による理論を基にしたツールであり、開発にあたっては日林協様が研究者や林野庁から方向性や理論のヒアリングを行った上で仕様を決めて、MIERUNEがQGIS向けプラグインとして実装しました。この開発の経緯やユーザーからの反響、今後の展望などについて、ICT林業推進室の大萱直花様に話を伺いました。
大萱様 日林協は林業や森林に関する科学技術の振興を目的とし、現在の会員は森林・林業分野の技術者や研究者、自治体関係者など3000人ほどとなっています。会員向けサービスや人材育成のほか、コンサルティング業務としてこれまで国内外のフィールドにおいて様々な調査・研究開発に携わっており、造林・育林や生態系保全・生物多様性、水資源・山地保全、森林土木技術の効果検証などに取り組んでいるほか、国際協力として海外への技術者派遣や衛星リモートセンシングのシステム提供なども行っています。
また、日本の森林認証制度であるSGECの審査やクリーンウッド法(CW法)の登録木材関連事業者の登録に関する業務、林業・森林に関する資格制度である林業技士や森林情報士などの認定・登録なども行っています。このほか、林業・森林に関する技術的な記事を集めた会誌「森林技術」を会員向けに発行しています。
大萱様 もともとは森林関係の研究者の方々がゾーニングについて研究するプロジェクトを行っていて、そこに当協会も参加していました。この研究は、近年普及してきたレーザー測量による地形データを使ってゾーニングを行うもので、“収益性”と“災害リスク”の2軸の組み合わせという考え方がとてもわかりやすいと思いました。
一方、林野庁でも近年、整備対象となる場所を絞って集中投資をするという姿勢を打ち出しており、その対象となる区域の選定をゾーニングによって行う必要がありました。そのためのツールを作成する事業において、研究プロジェクトの成果を組み込むと良いツールができるのではないかと考えて、日林協が手を挙げたという経緯です。
これまでのゾーニングは、外部の研究者や企業が計算し、地元の行政はただ結果を受け取るという形が一般的でした。本来は地元の行政や林業の事業者が地域の森林を「こうしたい」という思いがあって、それを可視化することがゾーニングだと言えます。そこで林業分野ではQGISが普及していることもあり、ラスター解析を簡便に行えるQGISのプラグインツールを開発することにしました。ゾーニングを行う際に各要素のしきい値を調節した結果が地図にリアルタイムに反映される、数値の設定が即見える化されるツールにしたいと考えました。重たいラスターデータを頻繁に保存する必要もなく軽快に動くツールを目指しました。
大萱様 以前から知人にMIERUNEさんの評判を聞いていたので、今回QGISのプラグインを作ろうと決めたときに、すぐMIERUNEさんにお願いすることを決めました。これまでにも外部の開発会社に委託することはありましたが、GISの知識が乏しかったり、打ち合わせ時にシステム系の専門用語を多用してわかりづらさを感じたりと、さまざまな課題を感じていました。MIERUNEさんはGISの知識が豊富にあり、難しい言葉を使わずにわかりやすく技術を説明してくださるので、最初の打ち合わせから非常にやりやすいと感じました。

大萱様 今回のプロジェクトは森林ゾーニングに関する研究成果を基に開発したので、研究者との意見交換がとても大変でした。開発体制としては、日林協が研究者とMIERUNEさんの間に入って意思疎通を図りながら、研究成果をいかにプログラムに落とし込むかを考えて調整する必要がありました。例えば「もりぞん」では道に近いほど収益性が高く算出されるのですが、研究者からは「山道なので斜面の勾配を考える必要がある」という意見をいただきました。日林協としては、「地形を反映するための数式を研究者側から出していただければプログラムに組み込むけれど、そうでない場合は難しいですよ」という話をした上で、最終的にはシンプルに水平距離で算出することで合意しました。
また、仕様決めの際は林野庁さんとの調整もしっかりと行いました。例えば“収益性”と“災害リスク”を算出するための要素は3つずつで良いのかどうかは入念に打ち合わせを行いました。開発を開始してから5カ月後にはプロトタイプが完成し、データを実際に分析して、手作業で行った計算結果と見比べながらバグチェックを行いました。計算式において等号・不等号の付け方が違っていたり、QGIS自体にバグが見つかったりと、細かい修正が多く苦労しました。
大萱様 打ち合わせのときに技術に精通しているエンジニアの方と直接対話できるので、こちらの希望が実現可能かどうか答えをすぐにいただける点はとてもやりやすくて、ときにはその場で対応していただけることもありました。「こういうことをやりたい」とリクエストを出せば必ず応えてくれるので安心感が高かったです。
MIERUNEさんとは2週間に1度くらいの頻度で進捗状況などを確認しながら開発を進めましたが、前回の打ち合わせを反映した結果をすぐに見せていただけることも多かったです。また、さまざまな課題が発生する中で、MIERUNEさんとの対話によって解決したことがいくつもありました。例えば「もりぞん」ではしきい値のパラメーターを変更すると結果がすぐに地図に反映されるようにしたかったのですが、その際に何か作業をするたびにデータを保存する形にしてしまうとデータの数が増えて管理が面倒になるので、「最後に出力するとき以外は、いちいち保存しなくてもいい形にしたい」というリクエストを出しました。
これに対して、MIERUNEさんから「色設定だけで処理したらいかがですか?」とアドバイスをいただき、保存することなく見た目だけが変わるようにするという仕様を導き出すことができました。また、2年目にバージョンアップする際は、データのヒストグラムを出して、しきい値の箇所に線を入れてわかりやすく表現するというアイディアもいただき、より使いやすくすることができました。
大萱様 「もりぞん」を自治体の関係者に見せると、ゾーニングを簡単に行えるツールということで注目されるのですが、しきい値はユーザー自身が地域の事情に合わせて決めるものであることを説明すると戸惑う方もけっこう多いです。どうしても、ボタンひとつで“答え”を教えてくれるツールであると期待されてしまいがちなのですが、「もりぞん」はあくまでも意思決定を支援するツールであり、ユーザー自身が考える必要があることがまだ十分に理解されていないので、これは今後も周知を図っていきたいと思います。
一方で、県の職員さんが「もりぞん」を使って自分でデータを作成し、市町村向けに説明したという事例もあるので、QGISを使える人であればマニュアルを見ながら十分に使いこなせるものであることは確認できました。林野庁も「『もりぞん』というツールがあるので、これを使ってゾーニングをきちんとしてください」と林業関係者に呼びかけています。
「もりぞん」は研究者の方々からも好評です。開発の際は、広く一般の人たちに使ってもらうために複雑な理論から色々と切り捨てて単純化しなければならないことも多かったのですが、研究者としてのこだわりから「自分たちだけでは切り捨てることができない」という思いもあり、MIERUNEさんと研究者との間に当協会が入ったことにより、切り捨てるところは切り捨てて、使いやすい普及版を作ることができたことに研究者の方々がとても喜んでくださいました。「もりぞん」はユーザー自身が作ったデータに差し替えることも可能で、しきい値を変えてアレンジすることもできるので、色々な使い方ができる点も評価されていて、研究者の方が学生に「もりぞん」を使って分析させる授業も行われているそうです。

大萱様 MIERUNEさんには「もりぞん」以外でも、林野庁の森林情報のデジタル化/オープンデータ化の事業においてコンサルティングをお願いしました。この事業では森林データのオープンデータ化に関する標準仕様書の作成や、「森林情報WEB-GIS」の開発など配信実証への参加、公開データの配信形式の選定に関する助言などをお願いしました。また、「もりぞん」についても、現状はQGISのバージョン3.16でしか動かないので、これを最新のバージョン4に対応させることを検討中で、これもMIERUNEさんに要件の整理をお願いする予定です。
日林協は森林・林業の業界の中において公正中立をモットーにしており、色々なメーカーが出している製品の中から「これが良いですよ」と中立の立場で助言を行っています。MIERUNEさんも同様に、オープンソースの技術の中でフラットな立場からベストなものを提示していただける会社だと思っており、今後も的確な提案やアドバイスを期待しています。また、MIERUNEさんは若い人が楽しそうに仕事しているという印象があり、社員1人1人が自由にプラグインやコンテンツなどを開発・公開していて、それが会社として認められているところも魅力ですね。MIERUNEさんの社員を見ると、「こんな仕事の仕方があるんだ」といつも感心させられます。
大萱様 この業界では高齢化による人材不足が進んでおり、DXの推進による業務効率化が求められています。日林協は森林・林業に関することならどのような課題にも対応しますが、説明するときに地図によるデータの可視化は不可欠なので、今後もGISを活用して課題解決に取り組んでいく方針です。
日林協は「もりぞん」の開発の中でもそうであったように、森林・林業関係者の“ハブ”の役割を担いながら、最新のツールを使ってどのように課題を解決できるのかを考えていきたいと思いますし、今はツールの進化がものすごく早いので、技術の進化をどのように採り入れていくのかはMIERUNEさんにアドバイスをいただきながら検討していきたいと思います。

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